続きものです。
プロローグからお読みになって下さい。



小さな隊長さんたち★第一話「出会う」




天気は晴天。桜乱舞で春らしい穏やかな日。
今日は新人死神や新任を任せられる死神にとって、待ちに待った日なのである。
今年はどの隊でも、優秀な新人が入ったり、昇格して新任になる死神達が多く、瀞霊廷は浮足立っていた。
だが、今年一番の話題は、何といっても、十番隊に新しい隊長・日番谷冬獅朗が就任することだ。
それもあって、特に十番隊の隊員達は皆一様に、不安やら期待やらの感情が渦巻き、ちょっとした緊張状態にもなっていた。
まぁ、十番隊の副隊長が引き続き、松本乱菊なので、反発が出ても松本の大らかな性格や器量で何とかなると、周りの隊長達は心配をあまりしていなかった。
それに、彼、日番谷冬獅朗はとても筋の通った男である。
そして器量も実力も十分で、最初の反発も時間が解決してくれるだろうと、予想された。



いや、それより他の隊長達にとっては、この人事が市丸にとって良いものにならないものかと悩ませていた。
隊長になってもわがまま言い放題、甘やかし放題でいつまでたっても子ども特有の感情が治らないことで頭を抱えていた。
外見が子供だと、中身がもういい年こいたおっさん、になりかねなくても、全員がその外見の可愛らしさに騙されるのだ。
あの愛想があるとか怪しいとか、人によってとり方は様々だが、にっこり笑顔が可愛らしく、さらさら銀髪は撫で心地がいい。
また、人懐っこい性格もあるため、ついつい甘やかしたくなってしまうのだ。
最近はおとなしくなった方だが、悪戯は陰湿になってきたりして、で、問題児は健在である。
よくもまぁ、これで隊長が務まっているなと思う死神は多いが、三番隊のほとんどが市丸ファンというだけに、実力や器量は他の隊長に引けを取らない。
特に小さい体から引き出す剣技は目をみはるものがあり、十一番隊長の更木をもうならす使い手である。
だがそれを知る死神は、市丸を知る者達と三番隊員だけであり、いろいろと批判やよからぬ噂が流れていたりするのは、別の問題になっている。





そんなこんなで、今日の新任隊長のお披露目の隊主会が行われる30分前。
市丸は、いい天気なので機嫌がよく、ゆっくり散歩でもしながら一番隊へ向かっていた。
そんな市丸の前方に、穏やかな笑みを絶やさない男が軽く手を上げながら、近づいてきた。


「おはよう、ギン。」


「あっ、藍染はんや!おはようさん!」


ご機嫌の市丸は満面の笑顔で、藍染に返す。
それを見た藍染は、いつもの優しげな隊長の面影もなく、鼻血を噴き出す変態おやじに変っていた。
市丸は元上司であったこともあり藍染の言うことは他の隊長より聞く方であるが、その分、一番甘やかしているのは藍染だった。
奇跡的にも、表向きは藍染の市丸への変態っぷりは知られていないようだが、市丸のわがままで子供なままの性格を作り上げている一番の原因は藍染だったりする。


「ギ…ギン。今日も相変わらず可愛いね。」


と朝から変態なセリフをはく藍染。
いつ何時でも常備している、「市丸萌え」によって出る鼻血をふけるティッシュで鼻を押さえているから、藍染ファンの女性隊員でもこのセリフに意味を持たない。
そんな藍染を市丸は軽くスルーして、ささっと、目的地へと歩き出す。


「ギ、ギン。待ってくれ。一緒に行こう。」


「…もぉーしゃーないなー。今度変なこと言うたら容赦せんで?」


と釘をさしながらも、藍染と並んで歩き出す市丸。
(そんな風に生意気言うギンも可愛いなぁーvV)
と思っている藍染だった。



「ところでギン。今日、新任の十番隊長の日番谷くんには会ったことあるのかな?」


気を取り直して、藍染は今日の主役の人物への話題を市丸にふった。
本当はこの話を隊主会の前にしておいた方がいいと思い、市丸に接触したのだ。
…まぁ、いつもストーカーしていたりするから、今日は話をする理由があるだけだが。


「…そりゃー僕はないですわ。
神童、神童、可愛い、可愛い、って山本の爺さんや浮竹のおっちゃんが大事にしとるんやし。
僕みたいな問題児が隊長って権力で悪させんように、見張っとったからな。
それに一番隊で大事に育てられとったしね。」


「はははっ。今だに、一番隊で悪さするとお尻ペンペンかい?昔は僕もやってたねー。」


拗ねたように言う市丸の言葉に、軽く笑って藍染が返す。
市丸はどやら注目の日番谷には興味があったらしく(あれだけ騒がれたら興味を持たない死神はいないのだが)、何か仕掛けようと思っていたらしい。
だが、市丸は罰という名でお尻をはたかれることを大層嫌がって、ここ数十年は一番隊への悪戯は少ない。
本当は全隊でこの罰則を実施するべきなのだが、何分市丸の本当の年は六番隊長の朽木白哉ぐらいなので、総隊長の山本以外はちょっと気の引ける罰であったのだ。
…市丸に甘いというふうにもとれるが。


「笑いごとっちゃうわ!爺さんは僕を目の敵のようにしとるわ!
それにあそこの貴族もいばっとるやつ多いから、いけすかん!」


「ギンは本当に貴族のことが嫌いだね。
…まぁ、権力に凝り固まったやつらにギンの良さなんてわかるはずもないだろうけどね。」


藍染は少し苦笑する。
市丸へのまわりの理解度は少なく、極端に敬愛したり可愛がったりする者もいれば、極端に嫌うものがいた。
前で少し述べたように後者の方が圧倒的に多い。貴族がその代表だ。


「…で、その新しい十番隊長はんがどうしたん?」


「あぁー、ギンも知ってるとおり、彼は君より小さい隊長でね。
あっ、年的にはかなり差があるけど。なんたって、君はもう青年になってる年だしね。」


「…そのことは、言わないでよろしっ。」


市丸は少し声を荒げて怒った。
実はこうみえても市丸はこの手の話は好きではない。
やはり、いつまでたっても成長しない体のことを気にしているのは当然なのかもしれない。
そのイライラもあって、市丸が余計に子供のようにふるまっていることを知っているのは、藍染と副官の吉良、幼馴染の松本だけであろう。


「そんなに怒らないでよ。
…それでさ、彼も隊長になったことだし、君に会わせてもいいころだって他の隊長達が言ってるんだよ。」


最近市丸以外の隊長格達が悩んでいたことを藍染はさらりと言った。
本当は市丸には内緒でということだったのだが、市丸の性格を考えると最初に少し気にかけてほしいようなことを言った方が効果的だと思った藍染は、そのことを伝えることにしたのだ。
突然意図が見えない話を言われ、市丸は怪訝そうな顔で藍染を見る。


「…はぁ?なんでまた、そんなことになってるん?
今日は特別、隊主会に行けってイヅルが言ったのはそれのせい?」


「多分ね。なんていうか、君がね、自分より後輩のそれで外見が小さな同僚ができたら少しは大人になってくれるかなって思ってるみたいなんだよ。」


「…なんやそれ。その神童がすごいやつって知ってるけど、なんでそいつが僕と関係あるん?
そいつと関わり合いになる気なんてないで。」


市丸はどの人物に対しても人懐っこい性格はあるのだが、深くまで関わろうという気はさらさらないのだ。
市丸が心を許している人物は本当に少ない。
いや、実際はいないのかもしれない。


「まぁまぁ、そう怒らないで。
でも、ギンも日番谷くんを見たらそうは言ってられないかもしれないね。」


「…なんでそう思うん?」


「あの子供嫌いな朽木隊長がね、気に入っているんだよ。
…それに僕も彼のことは心地よい少年だと思っているしね。」


あの朽木が気に入るのも珍しいが、藍染がここまでいう人物の方が市丸にとっては珍しかった。


「はぁー…そりゃー珍しいこともあるんやね。藍染はんも認めてるってことか。」


「そうだね。僕も彼の力には目を見張るものを感じたよ。」


そんな会話を藍染としているうちに目的地の一番隊についた。
市丸は日番谷に会うまでは藍染の言うことを信じていなかったが、少なくとも、何か楽しいことがありそうだとは感じていた。





藍染と市丸が一番隊の隊主会室につくと、すでに他の全隊長が位置についていた。
あの神童のお披露目なのだ、みんな一様に神妙な面持ちだった。
だが実際の内心はもっと違う方向に向いていた。


(おい、市丸が来たぞ。藍染も一緒だということはあの話をしたな。)


(そのようですね。でもその方がよかったのではないでしょうか。市丸隊長も心持楽しそうな顔をしていらっしゃるし。)


(…ふん、くだらぬ。)


(…事がいい方向に向いてくれたらいいのだが。)


(まぁ、まぁ。何事もなるようになるさ。)


(…正義に反しなければいい。)


(はんっ。市丸はあのままでも十分役に立ってるんだからいいじゃねーか。)


(それは君の隊があの忌々しい子供と斬り合いをするだけの被害だから問題ないんダヨ。
私の隊なんて立ち入り禁止が出ているのに、あの忌々しい奴は…)←エンドレスに文句を言う


(まぁまぁ、今日は冬獅朗の晴れ舞台なんだから、そのことはいいじゃないか。)


と、まぁ、皆が好き勝手電波会議をしていた。
今日の隊主会には珍しく、浮竹も参加している。
息子の晴れ舞台を見に行かねば!っということで調子もいいようだ。


「あっ、浮竹はんもおる!今日は調子いいん?」


「そうなんだよ!冬獅朗の晴れ舞台だからね!」


そんな風な会話をしながら、市丸と藍染はともに定位置についた。
市丸は、みんながこんなにも注目している日番谷がどんなやつか、そして、日番谷にどんな悪戯を仕掛けようか、内心はわくわくしていた。


(何したろうかなー。神童って言われて鼻高々のやつやろうし、相手はガキやし、ガキっぽい意地悪したろっかなー。)


外見も内面もガキっぽい市丸に言われる筋合いではないのだが、市丸は悪戯を企てていた。





そこへ時間になったのか、総隊長・山本元柳斎重國が入ってきた。


「…それでは、本日の隊主会を始める。」


山本は全体を見回し、特に市丸が参列しているのを確認して、始まりを告げた。
ご想像のように、市丸はそんな山本にしかめっ面で、舌までだすオプション付きの顔で返した。


(なんや、僕が来てるかいっつも確認しよって!)


隊主会を嫌がって、よくさぼるので山本がいつもそうするのは自業自得だということは棚に上げる市丸である。


「皆も知っておるように、今日付けで十番隊の隊長に日番谷冬獅朗が就任する。」


「ついに山じぃの秘蔵っ子の登場だねー。護庭十三隊に入ってからはめっきり顔を見せる機会がなかったから、久しぶりの対面かー。」


と京楽が軽い口調で、周りのなんとも言えない空気を和らげる。
市丸以外の隊長はまだ始まったばかりなのに、妙な疲労感を感じていた。
そのため、軽口でもたたかないとやってらんねー状態であった。


「…ではさっそく日番谷に登場してもらおうかのぅ。ほれ、入ってきなさい。」


そう山本が言ったあと、隊主会室に凛とした霊圧をもった者がゆっくり近づいてきた。
あれだけ、内心はざわざわと落ち着いていなかった隊長達は皆一瞬で張り詰めた、緊張感のある空気に変わった。


(…さすが神童やな。あんだけ電波飛ばしてなんか言ってた隊長達が皆この霊圧で静かになったわ。)


さすが過去の天才児。市丸には聞こえないように電波を飛ばしていた、各々の隊長達の会話は気付かれていたらしい。



なんとも言えない、凛とした、冷たい感じを持つのだが、引きつけられるような霊圧をもった日番谷が隊主会室に入ってきた。
髪は銀髪、目の色は翡緑、ツンツンとたてた髪の毛は一見硬そうに見えるが、歩くたびにふわふわ揺れて、触ったら柔らかそうだ。
眉間に皺がよっているのがなんとも残念だが、とても美しい少年だった。
霊圧は抑え気味なのに、この堂々たる姿勢が、隊長格達をも虜にする魅力なのだな、っと市丸は思った。


(…それにしても想像以上にきれいな子なんやなー。)


現実には、市丸だって言い分の無いほどきれいな面立ちをしているのだが、本人は自分の外見には興味がないらしい。
あとはその悪戯好きな性格のせいで、黙っていればきれいな子供、よりただの悪ガキっというイメージの方が強いため、市丸に対して、きれいな子供、と思うものはまれである。
そんなため、自分の外見は悪いと思っている市丸だった。(藍染のことは物好きのおっちゃんと思っている。)


「今日付けで十番隊長になる日番谷冬獅朗です。何分、この外見なので苦労をかけることがあるでしょうが、よろしくお願いします。」


と、物おじなどせず、堂々と澄んだ声で簡単な自己紹介をした。
そんな日番谷に山本や浮竹は目にハンカチを当てながら感激している。
他の隊長も日番谷の隊長就任を心から喜んでいる表情だ。
だが、例外はいる。


(きれいな子やけど、絶対に堅物な人物なんやろうな。仕事とか妥協は許さんって感じやね。僕と正反対やわ!)

と市丸は感じていた。


(ああいう子にはやっぱり深く関わらん方がいいわ。…周りがうるさそうやしな。)


そんな感じで、市丸はもう日番谷には興味が薄れたらしい。
感激している隊長をあきれ顔で見つめながら、隊主会の後をどうやって仕事をさぼろうか、という考えに切り替わっていた。



一方、日番谷の方は、むさ苦しい親父たちが多い隊長格達の中で、自分に近い外見をしている、市丸を観察していた。
日番谷は、山本や浮竹、周りの者たちに市丸の評価をいろいろと聞かされていた。


山本は、
「あやつに関わるでない。本当にただの悪ガキじゃ。実力と器量があるから隊長を務まっておるが、性格は本当にどうしようもないわぃ!」と悪評。


浮竹は、
「市丸は根はいい子だと思うよ。皆が言うほど悪い奴じゃないのは確かだね。そうじゃなかったら、三番隊は今頃全滅だよ!」と評価はまぁまぁ。
まぁ、市丸は病気がちの浮竹にまで悪戯などはあまりしない。


市丸を知らない者達の評価はまちまちだが、酷いことを言っているものの方が多い。
日番谷は流魂街出身で、そこでは、自分を知らない周りの住人たちに酷い言われようだったので、そういう類の噂は信じていなかったが。


実際会った市丸は、本当に朽木と年が近いのかよ、と言いたいぐらいのでたらめな様子で、会ってすぐに自分には興味がなくなったらしい。
下の方を向きながら、何やらよからぬことを考えているらしい。


(やっぱり思った通りのやつだな。仕事はさぼるは、何考えてるかわからなそうなところは噂どおりみたいだな。…だが、面白そうなやつだ。)


日番谷は外見の無垢なイメージは皆無である。
隊長になるぐらいだ、変なところで物好きだ。
どうやら、市丸は興味を持たなかったが、日番谷は興味をもったらしい。


(さて、どうやって市丸の興味を俺に持ってこさせようかな。)


と、何やら変なことを考え始めた日番谷。


「…それでは日番谷は指示した定位置につくのじゃ。」


「わかりました。」


そう山本に言われて、日番谷は京楽と涅の間に入る。
京楽は日番谷に「おめでとー。」と歓迎ムードだが、涅の方は「また忌々しいガキかっ。」と厭味をぶつけてくる。


(市丸は相当涅に嫌われているようだな。)


と思いながら、京楽には「ありがとうございます。」と言って軽く頭を下げ、涅の方は何も言わず、頭だけ下げておいた。


「それでは、今日の本第なんだがのぉ…」


と爺さんの長話が始まった。





(それにしても、あいつはよくもあんだけ堂々と寝られるな。)


日番谷のお披露目も終わり、通常の隊主会が始まってから40分程度が過ぎていた。
市丸は、日番谷が感心するほど、立ったまま器用に鼻ちょうちんまでつけて眠りこけていた。
一番前の山本から丸見えの位置で眠りこける市丸を、隣の藍染は困った顔をしながら、市丸が倒れてしまわないかと心配しているみたいだ。
まわりの隊長達も、山本の眉間のしわがどんどん深く、表情も厳しくなって、霊圧も上がっていて、冷汗だらだらだ。


(他の隊長達が期待していたことはあっさり裏切られたな。そもそも市丸が他人なんかに先輩死神として立派な態度なんて取ろうとなんて絶対考えないだろう。)


と案外冷静に分析して、この状況を楽しんでいる。
他の隊長達は、このまま山本の怒りが爆発しない前に終わってほしいと切実に思っていることなんかお構いなしの日番谷である。





「…ではこれにて隊主会を終了する。」


と山本の堪忍袋の緒が切れる前に隊主会は無事閉幕した。
山本にとっては孫みたいな存在の日番谷の手前、怒りを爆発させてしまったら、心の狭い爺さんだと思われてしまうので、今日のところは市丸にはお咎めなしにしたみたいだ。
「更年期障害でなかったらすぐに怒らないものじゃ…」とぶつぶつ呟きながら、副官に寄り添われながら、隊主会室を後にした。
どうやら、この後に日番谷をかまっている余裕はなかったらしい。



そんな山本を見送った、ほかの隊長達は、ほっと一安心して、緊張した雰囲気は一気になくなった。
そして、新任の日番谷と会話しようと、藍染、京楽、浮竹、卯ノ花達が集まってきた。
他の朽木、狛村や東仙は遠巻きに日番谷達を見ている。
砕蜂は刑軍の仕事か何かですぐに去ったみたいで、涅は次の実験のことで頭がいっぱいらしくぶつぶつと言いながら去って行った。
更木はいつの間に隊主会室を後にしていた。
そんな中、市丸は急ぐこともなくゆっくりした歩調で、さっき眠りこけていたのがうそのように、元気いっぱいの雰囲気で外に出ようとしていた。


(まぁ、市丸からわざわざ挨拶してくるなんて思ってもいなかったがな。)


そう日番谷は思いながら、まわりの声など無視して市丸の行動を見つめていた。
そして、取り囲んだまわりの隊長達を押しのけて、市丸に自ら近づいて行った。

そんな日番谷の行動に、少し驚いた様子の隊長達だが、その様子を面白そうに成り行きを見守ろうと、しんと静まり返った。


「あなたがよくお噂に聞く、三番隊の市丸ギン隊長ですね。
さっき自己紹介したとおり、新しく十番隊長に就任した日番谷冬獅朗です。以後お見知り置きを。」


「……!
 …はぁ、これはまたご丁寧にどうも。こちらこそよろしくお願いしますわ。」


と、日番谷の突然の行動に市丸は相当驚いたが、顔には出さず、ひょうひょうと、問題ない程度にあいさつを交わす。
日番谷が手を出してきたので、一応市丸も手を出し、握手をする。



「…それじゃ、仕事あるんで、帰らせていただきますわ。」


差し支えのない理由を言って、市丸は場を去ろうと、背中を向けた。
だが、その直後、日番谷の笑い声で、市丸は、ばっと振り返った。


「ははははっ。よく言うぜ。本当はこの後仕事をさぼろうとしていたくせによ。」


とおかしそうに笑う日番谷。
それを見て市丸はかちっときた。


「なんや、そんなの十番隊長はんに関係ないやないの。初対面やのに失礼やないの。それに隊長の仕事はいっぱいあってやな…」


「瞬歩でもなく、早足でもなく、ゆっくりした歩調で帰ろうとしていたやつが、仕事熱心だと思わないな。
それに、本当に仕事熱心なやつは、同僚関係は円満にしようとさきに考えるのが普通だと思うがな。特に初対面ならな。」


日番谷の的確な言葉に、市丸は答える言葉につまる。
日番谷の目は楽しそうに笑っていて、市丸の切り返しがどう出るか待っているようだ。


「〜っ!!別に僕が仕事さぼろうと何しようと、十番隊長はんには関係ないやろ!
十番隊長はんは可愛い顔して、いかにも無垢って感じの外見やのに、そんなに意地悪なお人やとは思いまへんかったなぁっ!」


「外見に騙される方が悪いぜ。それに…」




日番谷は市丸に唇がつくのではないかと思わせるほど顔を近づけ、




「市丸三番隊長も十分可愛い顔して、悪戯好きのガキ大将じゃないか。」




と不敵な笑顔で挑発的に言った。




「〜〜〜〜っっ、もぉー我慢できひん。絶対君、泣かしたるっ!!」


「はははっ!!楽しみに待ってるぜ!」


と日番谷の言葉を背中で聞きながら、市丸は瞬歩で隊主会室を後にした。


「…ほぉー、あの市丸を挑発するなんて…。さすが日番谷くん。」


と感心したように藍染。


「これからの楽しみが増えたねー。頑張って、日番谷くん。」


と面白そうに京楽。


「冬獅朗、あまり喧嘩はするんじゃないぞ。仲良くしなさいね。」


と心配そうに浮竹。


「そうです、日番谷隊長。喧嘩して怪我はしないように。」


と心配そうに言うものの、とても楽しんでいる卯ノ花。


そして、遠巻きに見守っていた隊長達もこの後の市丸と日番谷の展開に、暇はしそうにないな、と思っているのであった。




その後…


「覚えときーやー!!絶対泣かしてやるからなぁー!!!!」


と瞬歩しながら、絶叫していた市丸がいたとか。







一話はここまでです。
小さい市丸さんにきゅーんときた時に考えて、ずいぶん長く放置してきましたが、ようやく掲載することにしました。
拍手で連載しています。
そのうち、ラブラブ…ってもう、日番谷さん告白してるけどね!
これ、日番谷さんの一目ぼれっぽい話の流れになってますね!
まぁ、基本、甘ギャグテーストで、お送りします!!

09.2/11〜2/28