小さな隊長さんたち★第二話「理解する(前編)」




無事?に十番隊長に就任した日番谷は、執務室でさっそく仕事に取り掛かっていた…


三番隊長・市丸ギン;
真央霊術院を1年で卒業する。
当時、海燕につぐ天才児と騒がれた。
成績は首席だったのだが、最終試験では、嫌っていた教師の試験を白紙で出すなどの問題を起こした。
また、同期生達との問題も多く、特に貴族の生徒との間で問題が多発。
教師陣は手を焼いていた。


配属は五番隊。
噂によると、当時の三席を入隊して間もなく切り捨てたらしい。





また、技術開発局を半壊、十二番隊舎に甚大な迷惑を掛ける事件を起こし、十二番隊への立ち入り禁止と謹慎処分を言い渡される。
その直後、不慮の事故で、"成長を止める薬"なるものを体に混入させられ、成長が止まる。





卍解を取得し、隊長に就任。
晴れて三番隊長につく。







のではなく、個人的な調べ物をしていたらしい。
実は、山本が就任直後は疲れるだろうと考慮してくれたため、今日の仕事は自隊での挨拶と執務室の整理ぐらいだった。
仕事が早い日番谷は効率よく、自前に覚えてきた隊員の顔と名前を一致させながら、隊員達を労った。
新人隊員の事もばっちり調査済みの日番谷で、十番隊員全員が新しい隊長への不安は大分和らいでいた。


きっちりと今日のやるべきことを終わらせた日番谷は、興味がわいた市丸のことを詳しく調べていた。
だが、いくら調べても、だれが何のために市丸に"成長を止める薬"なるものを飲ませたのかが、記載されていなかった。


(これだけ調べても書かれていないってことは、あの初代技術開発局局長で元十二番隊長の浦原っていう人物しか思い当たらないが…)


まぁ、卯ノ花や涅すら直せない薬なのだから、あとに残る人物は浦原ぐらいだ。


(…それにしても今まであの姿だとは…ご苦労なことだ。)


とは思うものの、自分も成長がここ数十年?止まっているので、ああはなりたくないな、と思うのだった。





次の朝。
ちゅんちゅんと鳥のさえずりが響く朝。
今日も天気は晴れ。
さぁ、今日も一日がんばるぞっとどの死神たちも足早に仕事場へ向かっている。


そんな中、無駄に早起きしている子供…いや、もう大人にならなきゃならない子供が一人、十番隊の屋根の上で何かこそこそしていた。
顔にはいつもの笑みが今は十分に曲がっている子供…市丸が、今か今かと目当ての人が通るのを待っている。
霊圧を消している市丸には気付かない十番隊の死神達は朝のあいさつを交わしながら、通り過ぎていく。
今日から本格始動する十番隊は皆早起きをして、隊長不在で開いた、他の隊との差を埋めようと必死だ。
そんな献身に働く十番隊に悪戯をかけようと今か今かと待っている市丸は、本当に大人げない。
…今さらなのだが。


(はよ来んかなぁー♪)


と鼻歌まで歌いそうな勢いだ。


(あっ、来た来た!)


と市丸のお目当ての人物が早足で市丸の下を通過しようとしている。
隊員達は皆その姿を確認すると、頭を下げて挨拶をする。


「日番谷隊長、おはようございます!!」


日番谷は律義に皆に軽く手を上げながら挨拶を返している。
そんな中、どんどんと日番谷は市丸のトラップへと近づいている…。


(…市丸のやつ、こんな朝早くから悪戯しようとしてんのか…。仕事場に行けよ。吉良が泣いてるのが目に見えてくるぜ…。)


と日番谷にはバレバレだった。


トットットッと足音が近づく。


(…よし、今や!!)



ザバァァァァァァー



と勢いよく水が日番谷の頭上から降ってきた。


「おはようさーん!十番隊長はーん!」


と市丸は元気よく挨拶した…
が、屋根の上から廊下に着地した市丸が見たのは、辺りに散らばる氷とついさっきと同じ姿の、水にぬれた様子もない日番谷だった。


一瞬のことで何が起きたか飲み込めていなかったまわりも、ゴロゴロとでかい氷が一瞬で現れ、いや、さっきまでは確かに大量の水が降ってきたのだが、それが大量の氷に変ってしまったのだ、周りは悲鳴やら驚愕の声で騒がしくなった。


(た…確か僕は大きな樽いっぱいの水を十番隊長はんの頭上から流したはずやったんやけど…。)


さすがそこは隊長だ。
市丸は大の大人のそこらへんにいる死神では持てそうにない大きな樽に水を入れて運んできたのだ。
日番谷一人を朝からずぶ濡れにさせるためにそこまでの樽を使う必要はないのに、「大きな方がよりいい!」という子供(何度も言うが市丸は外見は子供の姿が、年は日番谷の倍?程度生きている)の発想で、ご苦労なことに無駄な霊力を使い運んできたのだ。


口をポカンと空けた間抜けな姿…藍染辺りは「可愛いvV」と飛びつきそうな姿の呆然とした市丸。
市丸の目の前にいる、涼しげな、ニヤリと口元に小悪魔な笑みをしている日番谷。


「よう!市丸!…朝から何の用だ?」


と何事もなかったように市丸に話しかける日番谷。


「…!っちょ、何で自分、濡れてないねん!!」


と日番谷の言葉に我に返った市丸は、大きな声でヒステリックにつっこんだ。


「…あぁ、これのことか。何だお前、おれの斬魄刀のこと知らないのか?」


足もとに転がっている氷を蹴りながら、不思議そうに聞く日番谷に、市丸は…


「…!!あぁーーーーーー氷輪丸やぁぁーーーーー!!!」


と無意味に絶叫している。
周りには朝からうるさくて仕方がない。
…本人には死活問題なのだが。


「…プッ!!お前バカじゃねぇーの?おれに水ぶっかけても意味がない。」


と腹を抱えて笑いだしそうなぐらいに可笑しそうに笑う日番谷に、市丸の顔はみるみるうちに赤くなっていく。
しかも眼には涙をうるうるとためていて、自隊の隊長に悪戯を仕掛けた悪ガキだったが、周りの十番隊員はみんな、そのきゅーんとなる可愛い(本人は恥ずかしい)姿に同情…というか、萌えていた。


(っ…!!キィィィー!悔しいぃーー!!)


と内心の市丸はハンカチの端を噛んで悔しがっている。


「おっ…覚えときっ!今回はこれで済んだけど、今度は痛い目みさしたるからなっ!!!」


と一世代前の悪役お馴染み?のセリフを叫びながら市丸は日番谷の前から走り去った。
そして、日番谷の斬魄刀まで気が回らなかった市丸の完全な敗北で最初の悪戯は幕を閉じたのであった。





ズルズル…
と市丸は引きずられるように吉良に襟元をもたれながら、廊下を歩いていた。


朝の勤務時間より早い時間に半泣きで執務室に飛び込んできた市丸に驚いた吉良。
「どうしたんですか?」と吉良は心配で聞くと、かくかくしかじかで…と今朝の悪戯の失敗は完全に自分が悪いのに、そのことは棚に上げて、日番谷にいじめられたような風に泣きつくのだ。
そのことを聞いた吉良は、


「またいたずらを仕掛けたんですか!しかも新任の日番谷隊長に!もう、隊長もいい加減に大人になってください!」


と市丸を叱りつけた。
吉良は市丸の副官…というより保護者のようになっている。
市丸の力を認め、敬愛しているのは確かなのだが。


「なんやなんや!イヅルの怒りんぼう!」


と、ぷぅーとほほを膨らませながら吉良の反応に文句を垂れる市丸。
表情がくるくるとかわって可愛らしいのだが、そんなことで許しては市丸のためにもならない。


「これでは、せっかくの十番隊との合同任務に支障が出るではないですか!…ほら、今から謝りに行きますよ!そして、仕事の話し合いもしてきますよ!」


と、”三番隊と十番隊との合同任務”の重要書類を市丸の前に突きつけながら、謝りついでに仕事のことも取り付けた吉良副隊長だった。





話は戻り、十番隊執務室前に市丸と吉良はいた。


「失礼します。三番隊長の市丸ギンと副隊長の吉良イヅルです。日番谷十番隊長との接見を願いたいのですが。」


と吉良が丁寧に挨拶をする。


(…最悪や。つさっきの出来事で、十番隊員のみんなが変な眼で僕を見よる。)


十番隊員の皆さんは朝の市丸の日番谷への悪戯事件で、思いがけず日番谷に軽くあしらわれる市丸のかわいい姿を目にしてしまった隊員が多く、今までと違った印象を持ったのでした。
…まぁ、皆さんちびっこが大好きなんです。


「あら、噂は何とやら。さっそく三番隊のお二人じゃない!」


「…入っていいぞ。」


笑いをふくんだ明るい声とともに、愛想のない声が続いた。
吉良は、すっと戸を引き、深々とお辞儀をした。


「おはようございます。挨拶が遅れてすいません。この度は十番隊長就任おめでとうございます。
初めてお会いしたきり、お会いする機会もなく、お久しぶりです。
しかし、雛森副隊長他、いろいろと日番谷隊長のお話はお聞きしておりました。今回は本当に十番隊長就任おめでとうございます。」


「おはよう。吉良とはおれが死神になった時に一回会っていたな。
あの時は雛森が無理言って会いに来てくれて、すまなかったな。あの後も雛森から、お前や阿散井の話をよく聞いていたよ。
これからは、隊長格同士会う機会が多くなると思うので、よろしく頼む。」


「いえ、こちらこそよろしくお願いします。…今朝はさっそく市丸隊長が日番谷隊長に失礼を働いたみたいで…本当に申し訳ございません。」


「いや、別に気にしていないから、吉良が謝ることではないぞ。」


日番谷はにやりとふくみ笑顔で市丸を一瞥した。
市丸はふくれっ面で舌を出して、日番谷を睨みつけていた。


「ほらほら、座って、ギン、吉良。お茶入れてきましたよー。」


「ありがとうございます。松本さん。」


十番隊副隊長の松本乱菊は持前の明るさで、微妙な雰囲気の隊長同士のにらみ合いもお構いなしだ。
市丸は黙って、長椅子にちょんと座った。それに続き吉良も隣に腰かけた。


「…ふふ。それにしてもギンはいつまでたってもお子ちゃまよねー。」


「うるさいわ。…乱菊もこんな性悪隊長の下で苦労するなー。」


厭味を交えながら、市丸は正面に座っている日番谷を睨み続ける。
そんな市丸の態度に吉良はそわそわして、市丸をなだめながら、日番谷に頭を下げ続けている。


「えー、そんなことないわよ。隊長は仕事も速くて、実力も文句なしよ!
それにもうすでに私も含めて、十番隊の皆は隊長のファンよ。 そうじゃないと、今日の朝のあんたの悪戯も笑い話になってないわよ。
…まぁ、愛想がいいとはいえないけどねぇ♪」


松本は日番谷の方ににっこり笑顔を向けた。
日番谷は眉間の皺を深くさせながら、松本を一睨みして、正面の相手に真剣な顔で向き直った。


「そんなくだらない話は後にしてもらう。
…それで、今日は俺への挨拶だけではなく、十番隊と三番隊の合同任務の事で来たんだろ?」


「はい!就任早々で申し訳ないのですが、来月早々に行われるので、早いうちに話し合っておいた方がいいと思いまして伺いました。
…それに、今朝の失礼も謝っておかないといけないと思いまして…。」


「僕は謝らんで。」


市丸はぴしゃりと言って、そっぽを向く。
そんな市丸の態度に日番谷は、吉良も苦労してるな、と思った。


「さっきも言ったように、気にしてもらわなくて大丈夫だ。この通り、何も怪我もなかったんだしな。」


「そうよー吉良は気にしすぎよー。でも、ギンは反省しないといけないわよ。隊長以外の人にあんなことしたら、後片付けとかも大変なんだから!」


「…もうええやろ。早く合同任務の話進めましょ。」


と市丸はあの忌々しいことは話に出すなという口調で、先を促した。


「…それでは、合同任務の実施場所なんですが…」


と吉良が綿密な内容を話し始めて、ようやく仕事の話に入ったのだった。








またまた、市丸さん幼稚化しています。
後編はかっこいい市丸さん目指しております。
…まぁ、全体を通して、市丸さんは可愛い感じでお送りしていきます。

09.3/1〜4/16(拍手にて)