小さな隊長さん達★第四話「大切な気持ち」




日番谷はある人の元へ向かっていた。
市丸を元に戻したいと思ったのはいいが、どうすればいいか分からないまま月日が流れていた。
現世に追放されているはずの浦原を探してみても、会ったことなどないため霊圧の探しようもない。
また、浦原に関する資料も手掛かりがない。
こうなると市丸の元上司に聞きにいけば何かわかると思い、書類を届けるついでに何気無く聞こうと思い立った。


(本人に聞いたところで教えてくれそうにないだろうし…)


それに本人が解決法を知っているのなら、自分自身ですでに解決しているだろう。
しかしそれができない状態、もしくは解決策がないかのどちらかだ。


(だが本当に約百年もの間、成長なんて止められるのか?)


薬というだけに、解決策はあるはずだ。
そう確信にいたった日番谷だった。









「十番隊の日番谷だ。書類を届けに来た。」


「あっ、シロちゃんだ!」


「てめぇ…」


「あっごめん!日番谷隊長♪」


「相変わらず仲がいいね。」


爽やか笑顔で迎えてくれたのは五番隊長の藍染と副隊長の雛森だった。
そう日番谷は市丸の元上司・藍染惣右介に聞けば何かわかるのではないかと思ったのだ。


「あれ…この書類は急ぎのやつかな…?」


日番谷から受け取った書類を見てすぐに隊長がわざわざ届けに来るほどの案件ではないことに気づいた。


「あぁ、ちょっと…」


チラリと雛森を見て言葉を濁した。


「雛森くん…ちょっと席を外してくれないかな。」


「えっ…はい!この書類を届けに行きますね!」


「ありがとう。」


日番谷のその様子を見て藍染が気をきかせて雛森に席を外させた。
日番谷は藍染以外の誰にもこの話を聞かれたくなかったので、ありがたかった。


「すまない。」


「いや、いいんだよ。それで、今日は市丸のことで来たのかな?」


「あぁ…って!何で!」


「ははは。驚くことではないよ。君が来るのを待っていたのだからね。」


「じゃあ!もしかして…!」


藍染が日番谷の言いたいことを察知していたのにも驚きだったが、日番谷が藍染の元に来ることも予知していたとは思いがけなかった。
そして、意味深な言葉は何か知っている証拠だ。


「そうだね、日番谷君が知りたいことを僕は知っているよ。でもね…」


「……?」


藍染は言葉をそこできって、日番谷を真正面から見据えた。
そして、言葉を続けた。


「でも、今の君には言えないよ。」


はっきりとした口調で言った。


「…何でだ?」


日番谷を待っていたと行ったのに、それを覆す言葉を続けた藍染に焦れた。


「焦りは禁物だよ。それに今の君には市丸を助けることは出来ない。」


「どういうことだ?」


「日番谷君は何故市丸を助けたいと思ったんだい?」


「それは……
 友人だからだ…。」


日番谷は即断即決のたちがあるため、強い意思に従ってここに来た。
市丸とは友人であると言えばそうだろうが、果たして相手にそう思われているのかは自信がない。


「本当にそれだけの気持ちかな?」


「えっ?」


「もう少したってからここへまた来なさい。」


藍染はそう言って日番谷を帰した。


(藍染は何を言いたかったんだ?)


執務室へ戻る帰り道、その答えを頭の中でずっと考えているのだった。









先日までの雨が嘘のような、強い日差しが降り注ぐ暑い季節になった。
藍染に追い返された後、いろいろと日番谷は考えたのだったが、言わんことを理解出来ずにいた。
市丸は相変わらず、普段通りに接触してきていたが、最近変わったのが、世間話をするようになったことだ。
これまでは一方的に悪戯するだけの市丸が日番谷と話をするために来るようになった。
それを楽しみにしている。


(このむず痒い気持ちは…)


日番谷も少しずつ気づき始めていた。


「日番谷は〜ん!」


「ひっつ〜!」


そんなことを思いながら執務室で仕事をしていた日番谷の元に騒がしい声をたてる者が浸入してきた。


「…てめぇ〜らいつもうるせぇんだよ!」


不法侵入者に怒声を上げる日番谷。
頭を悩ませている相手は、呑気に過ごしている。
弱い面を見せたり、強い面を見せたり、真実の顔が見えてこない市丸にだんだん腹が立ってきた。


「短期は損気やで〜。」


「そうだよ〜。」


「お前らがいつもくだらん事を仕出かすからだろ!」


しかも、今日は草鹿とつるんでまたくだらない事を思いついたのだろう。
暑さで余計気が立つ。


「くだらなくないで!」


「今日は暑いからひっつ〜に氷をもらいに来たんだよ!」


「僕にもちょうだいな!」


「てめぇら…」


「あっ日番谷はんも一緒にかき氷作ろうな!」


どうやら暑いから氷を出せと言いに来たらしい。
自分本位な考えに「おれはくそ暑い中でも仕事してんだぞ!」と思った日番谷だったが、市丸の方はどうやら一緒に食べたいらしい。


「私はね、剣ちゃんと一緒に食べる!」


草鹿の方は更木と一緒に食べたいみたいだ。

そして、よく見ると市丸はリュックサックを背負っていた。


「あっ、これな、ペンギンのかき氷機!後、いちごとブルーハワイとレモンの蜜持って来たんよ!」


日番谷の目線に気づいたのか、市丸はリュックの中から、持ち物を出し始めた。
夏によく見かける、ペンギンの形をした、かき氷機。
合成着色料をいっぱいつかっていそうな色をした蜜。
赤と青と黄色がなんとも言えない誘惑だった。


「まぁいい。今日は暑いしな…。」


「やった〜!!」


「よっしゃー!みんなでかき氷つくろうな、日番谷はん!」


「…はぁ?」


「乱菊〜用意はいいかぁ?」


「ばっちりよ〜!」


執務室の外から松本の声が聞こえた。


「日番谷はん、こっち!」


日番谷は市丸に手をひかれて、執務室の外に出た。
そこには巨大なかき氷製造器、なるものらしい機械が姿を現していた。
ご丁寧にも市丸が持ってきている小さいペンギン型かき氷機と一緒の形をしている。
また、十番隊の中庭にはいつの間にか数か所にテントが張ってあって、そこには十番隊員達の姿があった。
そして、いつの間にか書類を出しに行っていたのであろう松本もなぜかその中にいた。


「松本ぉぉ…。」


仕事をさぼってこんなことしていた松本にどすの利いた声を出す日番谷。


「こんな暑い日なんですから、ちょっとは涼みをしましょうよ!」


そんな日番谷お構いないに松本はにっこり笑顔でそう言った。
よく見ると十番隊士たちは皆楽しそうに笑い合っていて、
「隊長、早く作りましょう!」
と、そんな声が上がっている。


(…しょうがねぇな。)


「…今日だけだぞっ!」


そんな生き生きした表情の隊士達に怒る気も起らず、むしろ、この微笑ましい光景を崩したくなかった。


「あっ、剣ちゃん!こっちこっち!」


草鹿が呼んだのか、更木、斑目、綾瀬川がやってきた。
どうやら、十番隊で食べていくらしい。








「日番谷はんと僕の分はこっちでつくろうなぁ。」


巨大かき氷機に、これまた巨大な日番谷が出した氷をはめ込み、隊士達は数人でせっせと巨大ノブを回して、氷を削っていた。
でかい容器にでかいかき氷ができ、そこから小さい容器に移して、それぞれ好きな味の液体をかけて皆が食べていた。
そのまわりには並ぶ行列ができ、中庭は騒がしい人だかりになっていた。


そんな中、人だかりの無い片隅でかき氷をもらおうと並んでいる行列を横目に、市丸は持参していたかき氷機で自分たちのだけを作るらしい。
市丸らしかった。


「…俺達だけでかよ。」


「頭ええやろv」


「…それならこんな大規模なことしなくてよかったじゃねーか。」


「うん。でも、僕たちだけで楽しんだらかわいそうやろ?」


「…お前の隊のやつはかわいそうだと思わないのかよ。」


「えっ?もしかして、僕の三番隊にも氷作ってくれるん?」


「…かまわねーよ。」


「ありがとさん。」


市丸は嬉しそうに笑った。


(…本当の市丸ってこういうあったかいヤツだよな…)


隣で市丸がかき氷を作るのを眺めながらそう思った。




「日番谷はんは、何味にする?ブルーハワイ?」


「…何でもいいよ。」


「うん。じゃ、ブルーハワイ。」


そう言って、青色の液体を白い氷の上にかけた。


「はい、日番谷はんの色!」


「はぁ?」


「日番谷はんって、青色のイメージするねん。あっ、でも、緑でもええかな〜。メロン味は持ってないからな〜。」


「…ははははっ!!」


市丸が真面目な顔をして言っているのが日番谷にはおかしかった。
多分、日番谷の目の色と氷のイメージを指して、そう言っているのだろう。


「えっ、なんか変やった?」


「じゃ、お前はいちご味だな!」


何も液体がかかっていないもう一つの氷に日番谷は赤色の液体をかけた。


「はい、市丸の色だ!」


そうやって、市丸に渡したら、面食らったような顔をしていた。


「はははは!アホ面っ!!」


「…うっさいなぁ〜////」


市丸は少し照れた顔をしてかき氷を受け取った。





(こいつといるとあったかい。)





「やっぱり暑い日のかき氷は美味しいなぁ〜。」





シャリシャリと氷を削りながら食べる。
市丸がのんびりとした声で何かをしゃべっている。
市丸が自分の事を思って何かをしてくれる。
市丸が悪戯ではなく、一緒に楽しむために自分の元にいてくれる。
市丸が笑っている。





(あぁ…


    なんて、


     なんて、


                  愛おしいんだ…)





自然と日番谷は思った。
市丸と一緒に過ごす日々が愛おしいっと。





「市丸っ!」


「えっ、何や急に?」


「分かったぞ!」


「何が?」


「だから、お前、覚悟しておけよ!」


「えっ!?何や僕、悪いことした??」


突然の言葉で困惑気味な市丸を横に置き、日番谷は自分の気持ちをようやく理解した。

はたして、この気持ちが藍染が知る真実を聞くための答えなのかは分からなかいが、日番谷はここ最近のモヤモヤが晴れ、すっきりした気分になった。





(市丸ギンが好きだっ!)





冷たい氷が心に沁みる暑い日だった。








四話もだるだるな話になったなぁ…。
精進しますっ!

09.5/21〜6/9まで拍手