日番谷は足早に廊下を歩いていた。
いや、もう走っているに近い。
表情も固く、回りの隊員たちは挨拶はするものの、尋常な雰囲気ではない日番谷に不審がった。




(早く三番隊に行かないと!)




そう、なぜ日番谷はそんなに急いでいたのかというと市丸に会いに行くためだった。









自分の気持ちに気づいた、あの蒸し暑い時期からは大分暑さの弱まった日だった。









小さな隊長さん達★最終話「これからもずっと一緒に…」









「君のその気持ちがあれば大丈夫だよ。」


あの後、藍染に早速会いに行った。
藍染はこの前とは違い終始穏やかな表情と声だった。


「現世のこの場所に行けばいい。君自身からちゃんとした事を聞くといいよ。」


そう言って、黄ばんで古びた小さな紙を日番谷に渡した。


「あっ…それと君だから市丸を救えるのだからね。」


藍染の苦笑した表情だけがやけに鮮明に頭に残った。



















「いや〜百年もたってようやく候補が出来るとは、市丸さんって意外すぎるほど純情なんですね〜。」


間の抜けた声と共に出てきた目的の人物らしいげた帽子を被った浦原が店の奥から出てきた。


「あら、面食いだったからこんなに時間がかかったみたいですね!」


市丸の今の状態を分かってかそうでないのか、軽率な発言に日番谷は切れて、一発殴った。

一度会ったら絶対に殴ってやろうと思っていたのもあるが。

日番谷の全力の拳に軽く吹っ飛ばされた浦原。
あいたた、と頬を押さえながら、可愛い見た目に反して情熱的なんですね、と失礼な事をまだ言っているのでもう一発殴ろうかと思ったが止めた。


「…十番隊長日番谷冬獅朗だ。市丸は元に戻るんだろうな…。」


日番谷のこの言葉で、それまでヘラヘラしていた浦原の雰囲気が一変した。




「…はい。元に戻りますよ。」




真面目な表情になった浦原。


「…私も若気の至りでしょうかね…。市丸さんには悪い事をしました。」


「………。」


「…でも市丸さんはいい人を選ばれた。あなただから、市丸さんを救えるのでしょうね。」


浦原の言葉が藍染の言葉と被った。


(なぜ、おれだから、市丸が救えるんだ…?)


日番谷はゴクリと生唾を飲み、浦原の言葉の続きを待った。


「解決方法は、簡単なことです。それは………



















「市丸ぅぅ〜!!!」


と本来ではあり得ないような大声を出す日番谷がいた。


バンっ!!


と他人様の隊の戸を思いっきり開けた。


「吉良っ!市丸はいないのかっ…!」


はぁはぁ、と息を切らしながら突然やってきた日番谷を見て、少し目を丸くしていた吉良だったが、その様子に何かを察知し、言葉を返した。


「あっ、はい。つい一刻前にはいたんですがね…。」


今は空席の隊主席をチラリと見て、吉良は目を伏せた。


「…どこに行ったんだ?」


「多分現世だと思います…。」


吉良の普段よりは元気のない、どことなく憂いのある表情に、日番谷は頭の中である事に気がついた。


「…この前殉職した隊員達の四十九日が今日だったな…。」


「はい。…何かを信教しているわけではないみたいですが、隊長は一つの魂とのお別れに、と毎回一人で弔いに向かわれるのですよ…。」


「…そうか。…おれがその場に行っても差し支えないか?」


「多分、大丈夫です。…この場所にいると思います。」


そう言って、吉良は現世の地図を取り出し、日番谷に場所を指し示して、それを渡した。


「…分かった。今から会いに行ってくる。」


「はい。」


「それでは、失礼する。」


日番谷は受け取った地図を握りしめ、吉良に軽く頭を下げて、辞そうと踵を返した時だった。


「あの!」


吉良の引きとめる大きな声に、日番谷は振り返った。


「…んっ?何だ?」


「市丸隊長をよろしくお願いしますっ!!」


吉良は深々と頭を下げた。


(市丸はいい部下を持っているな…)


吉良の市丸を心配する気持ちがひしひしと伝わってきて、日番谷はそう思った。
吉良はすでに日番谷の決心を理解したようだ。


「…あぁ。分かってる。」


そう言葉を残して、今度こそ、日番谷は三番隊を後にした。








最終話…結局だるだるな感じで終わるのです…。

09.6/10〜8/4まで拍手